無 添 加 食 品 の 品 質 向 上 技 術 の 開 発
徳 田 正 樹 ・ 前 原 美 恵 子
食 品 産 業 部Quality
Improvement of Additive-free Foods
Masaki TOKUDA
・
Mieko MAEHARA
Food Industry Division
要
旨
地 元 の 農 産 物 を 用 い て 製 造 さ れ る ふ る さ と 食 品 は , 無 添 加 で あ る た め , 保 存 性 が 低 く 品 質 保 持 が 難 し い も の が 多 い . そ こ で , か り ん と う , イ チ ゴ ジ ャ ム , 麦 味 噌 , 豆 腐 を 対 象 と し て , 各 食 品 の 品 質 保 持 に 関 す る 要 因 を 明 ら か に し , 試 験 結 果 を 取 り ま と め た 各 加 工 品 別 の 製 造 技 術 マ ニ ュ ア ル を 作 成 し た .
1.
は じ め に
食に対する信頼が揺らぐような事件が相次いで起こる 中,消費者の食の安全に対する目はますます厳しくなっ ている.こうした中,地元の農産物を用い添加物を使用 していない,ふるさとの味,手作りといった要素を持つ 加工品は,その安心感から注目を集め,期待されている.
しかし,このような加工品は無添加であるため,保存 性が低く品質保持が難しいものが多い.
そこで,県内の多くの加工事業所が取り組んでいるか りんとう,イチゴジャム,麦味噌,豆腐を対象として製 品の品質に関わる製造,保存中の各条件を明らかにする ことにより,安全・安心な製品づくりの指標を作成し, 製品の品質および安全性の向上を図る.
2.
実 験 方 法
2. 1 かりんとうの品質劣化要因の検討 2. 1. 1 供試材料
県内の加工事業所で試験用に製造したかりんとうを使 用した.
2. 1. 2 油脂の抽出法
かりんとう1袋 (200g) を粉砕して共栓三角フラスコ に入れ,エーテル(POV測 定 用)200mlを 加え,これを 時々ふり混ぜながら約2時 間放置した後,検体の固形物 が流出しないようにろ紙を用いてろ過し,さらにフラス コの中の検体にエーテルを100ml加 えてふり混ぜた後, 同じろ紙を用いてろ過した.このろ過した溶液を,水温 40℃以 下の水浴上で減圧下にエーテルを完全に除去し, 残留物を分析試料とした.
2. 1. 3 過酸化物価(POV)の測定
抽出油脂5gを 精密に量り採り,共栓三角フラスコに 入れてクロロホルム・氷酢酸混液(2:3)35mlを 加えて溶 解した.均一に溶解しないときは,さらにクロロホルム ・氷酢酸混液(2:3) を適当に加え,完全に溶解した.次 いで,フラスコ内に窒素ガスを通じながら飽和ヨウ化カ リウム溶液1mlを 加え,直ちに共栓をして約1分間混ぜ た後,デンプン試液を指示薬として,0.01N チオ硫酸ナ トリウム溶液で滴定した.
2. 1. 4 酸価(AV)の測定
抽出油脂10gを 精密に量り採り,共栓三角フラスコに 入れてアルコール・エーテル混液(1:2)100mlを 加えて溶 解した.これに,フェノールフタレン試液を指示薬とし て,30秒 間持続する淡紅色を呈するまで0.1N アルコー ル製水酸化カリウム溶液で滴定した.
2. 1. 5 製造条件による検討
製造条件による品質劣化の様相を明らかにするため,
糖衣(りんかけ)をしたものと 糖衣をしていないもの
を,酸素透過性のある包装材で包装した後,常温で室内 に放置し,経時的にPOVお よびAVを 測定した.
2. 1. 6 光照射の影響
光照射の有無による品質劣化の様相を明らかにするた め,酸素透過性のある包装材で包装したもの(糖衣あ り)を,常温で室内放置,蛍光灯照射(1,500lx) ,暗所 (25℃ )保管し,経時的にPOVお よ びAVを 測 定した.
包装条件の違いによる品質劣化の様相を明らかにする ため,いずれも糖衣のあるものを,酸素透過性のある包 装材で包装,酸素透過性のない包装材で包装,脱酸素剤 を封入し酸素透過性のない包装材で包装と,包装条件を 変えて,常温で室内に放置し,経時的にPOVお よびA Vを測定した.
2. 1. 8 県内加工事業所の製品の調査
県内2ヶ 所の加工事業所で製造販売されている製品に ついて,常温で室内に放置し,経時的にPOVお よびA Vを測定した.
2. 2 イチゴジャムの品質劣化要因の検討 2. 2. 1 イ チ ゴ ジ ャ ム の 調 整
県内産のイチゴ(品種「とよのか」)を小売店を介し て入手したものを使用して,糖度40,50,60度 ,クエ ン酸含量0.5,1.0% のジャムを調整した.ペクチンは原 料に対して1.0% を 添加した.
2. 2. 2 色調の測定
色調は,測定色差計(CM-355d, コニカミノルタ社 製)を用い,試料の反射光を測定した.また,測定値よ り彩度,色差を算出し評価を行った.
2. 2. 3 保存方法による影響
光照射の有無,温度による色調の変化を明らかにする ため,常温(6∼9月) ,常温暗所,冷蔵(10℃)で保 管し,経時的に色調を測定した.
2. 3 麦麹の品質安定技術の検討 2. 3. 1 麦麹の調整
国産の味噌用裸麦を小売店を介して入手したものを使 用して,原料重量5kgの 小規模で麦麹を製造した.製麹 は自動製麹機(ヤエガキ製)を用い,種麹は麦味噌用 (ヒグチ製)を使用した.
2. 3. 2 麹水分の測定
麹5gを 精秤し,60℃ 減圧乾燥法により分析を行った.
2. 3. 3 酵素液の調整
麹10gに0.5% 塩 化ナトリウム溶液100mlを 加 え,激 しく振とうし,室温で約3時 間放置して酵素を抽出し, 分析試料とした.
2. 3. 4 酵素活性の測定
麹のα −アミラーゼ,S-アミラーゼ,プロテアーゼ
(pH3.0,6.0,7.5) 活性は,基準味噌分析法(1)に 準 じて分析を行った.
2. 3. 5 甘酒テスト
麹100gを 三角フラスコに入れ,温湯(70℃ 前 後)20 0mlを 加え,56℃ で正確に1時 間糖化させた後,冷却し た.糖化液をろ紙で正確に1時間ろ過して,ろ液を分析 試料とした.液化力は,メスシリンダーでろ液の量を量 った.糖化力は,糖度計で糖度を測定した.
また,ろ液のpHも 測定した.
2. 3. 6 生菌数の測定
標準寒天培地にカビサイジンを添加した培地を使用し, 35℃ で48時間 培養後,生育したコロニーを計測した.
2. 3. 7 麦浸漬条件の検討
裸麦1kgを ,10,20,30℃ の各水温で10∼120分 間 浸漬後,60分 間の水切りを行い,水分を測定した.
2. 4 豆腐の賞味期限の検討 2. 4. 1 供試材料
県内の豆腐製造所で製造された木綿豆腐を,5,10,3 0℃で保存した.
2. 4. 2 細菌検査
経時的に各温度で保存した試料を取り出し,滅菌した メスで細かく切断してよく混合し,その中から10gを と り,滅菌生理食塩水90mlを 加え,ストマッカーで1分 間粉砕混合したものを試料原液とした.試料原液を滅菌 生理食塩水で段階希釈しペトリフィルムを使用して一般 生菌数を測定した.
3.
試 験 結 果 お よ び 考 察
3. 1 かりんとうの品質劣化の様相3. 1. 2 光照射による品質劣化の様相
光照射の有無によるPOVの 変化をFig.2に 示した.蛍 光灯を照射したものはわずか7日間でPOV値 が20を 超 えた.暗所(25℃)に保存したものは90日 後 でもPOV 値は6と 製造直後の状態を維持していた.さらに,151 日後でもPOV値8と いう低い数値であった.光を当て ないということだけで,品質劣化を十分抑制することが 可能であることがわかった.また,店頭での陳列時には, 強い蛍光灯の照射に商品がさらされていることから,長 い期間このような状況が続くことは,品質に重大な影響 を及ぼすことになることが予想される.なるべく早く商 品を回転させるということも重要であるが,包装材の表 面にはイラストなどを入れ光線を遮断し,裏面の一部に 中味が見えるような工夫をするというようなことも考慮 されるべきである.直射日光や西日の当たるような場所 に陳列することは絶対に避けるべきである.
F ig.2 光照射による過酸化物価の変化
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 保存日数(日)
P
O
V
室内放置 蛍光灯照射 暗所(25℃) F ig..1 糖衣の有無による過酸化物価の変化 0
10 20 30 40 50 60 70
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
保存日数(日)
P
O
V
糖衣なし 糖衣あり
3. 1. 3 包装条件の違いによる品質劣化の様相 包装条件の違いによるPOVの 変化をFig.3に 示した. 酸素透過性のある包装材で包装したものは90日 後にPO V値 が41で あったのに対し,酸素不透過の包装材で包 装したものは90日 後のPOV値 が21と ほぼ3ヵ 月間品 質が保持されていた.さらに,酸素不透過の包装材を使 用し脱酸素剤を封入したものは90日 後のPOV値 が7と 製造直後の状態を維持していた.包装条件を変えること で品質保持期間は大きく変わった.賞味期限をどの程度 にするのか,どの程度のコストがかけられるのか,また 商品の形態によって適切な包装方法を選択することが必 要である.
3. 1. 4 県内加工事業所の製品の品質劣化の様相 県内の2ヶ所の加工事業所で製造販売しているかりん とうのPOVの 変化をFig.4に 示した.いずれの製品につ いても製造後60日 頃までは同じような経過をたどった が,U加 工所の製品については90日 後にPOVが 大きく
F ig.3 包装条件による過酸化物価の変化
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 保存日数(日)
P
O
V
酸素透過 酸素不透過
酸素不透過・脱酸素剤
F ig.4 県内加工所製品の過酸化物価の変化
0 10 20 30 40 50
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 保存日数(日)
P
O
V
上昇した.製造環境,製造方法,原材料等の違いにより, 保存期間が長くなると品質劣化の様相が極端に異なって くることがわかった.したがって,賞味期間については 一律に設定基準を設けることは難しく,各製品毎に調査 を行ったうえで設定することが重要であると考えられる.
3. 2 イチゴジャムの色調変化 3. 2. 1 保存方法による色調変化
イチゴジャムの色調の変化をTable 1に 示した.10℃ で保管したものは,90日後でも色調の変化を表す色差 の上昇はわずかで,官能的にもほとんど変色は認められ なかった.常温で保管したものは15日後,常温暗所で 保管したものは30日 後には,明らかに赤色の退色して おり,商品性は無いと判断された.
3. 2. 2 製造方法の違いによる色調変化
糖度60度 のものが,40,50度 の ものと比較して,製 造直後から明らかに赤色が濃く鮮やかであった.
クエン酸添加量の違いは,今回の試験では色調にほと んど影響を与えなかった.また,明るさを表すL値 や 赤色の度合いを表すa値,彩度などの数値には,官能評 価で表れた差のような明らかな差は認められなかった. 15日後 30日後 60日後 90日後 常温 7.2 9.1 13.2 14.7 暗所 6.7 8.7 12.2 14.4 10℃ 1.6 2.8 8.0 7.5 常温 6.6 10.1 11.9 12.5 暗所 7.2 8.6 12.4 16.1 10℃ 3.7 3.7 10.9 10.2 常温 7.0 7.1 10.8 12.3 暗所 5.8 7.2 11.4 11.8 10℃ 4.9 4.8 5.9 7.1 40
50
60
T able 1 イチゴジャムの色調の変化
糖度 保存方法
色差
3. 3 麦麹の品質
3. 3. 1 県内加工事業所の麦麹の品質
県内の味噌製造事業所で製造されている麦麹を分析し た結果をTable 2に 示 した.水分30% 以上の多湿麹が多 数見られた.また,酵素の生成が不十分なものも多く, 生菌数も通常104∼105であるが,かなり多かった.原 料処理工程における水分管理や製麹中の温度管理に問題 があるものと考えられる.
3. 3. 2 吸水条件による麹の品質
吸水過多,吸水不足,最適吸水の各水分条件の麦を使 用して麹を製造し,その品質を調査した.各製造工程に おける水分変化をTable 3に 示 した.水切り後の工程は, 各水分条件の麹とも同様で,0.5kg/cm2,25分 間蒸し後, 36℃ ,42時 間製麹を行った.
各条件で製造した麹の分析結果をTable 4に 示した. 吸水過多のものは酵素活性が弱かった.また,糖化力が かなり弱かった.吸水不足のものはアミラーゼ活性が弱 かった.以上の結果より,水切り後の水分が35∼38% になるように浸漬を行うことで,水分状態の良いバラン ス良く酵素を生成した麹を製造できることがわかった.
3. 3. 3 麦吸水条件
麦の各浸漬条件における水分をFig.5に 示した.水温 10℃ の場合,30∼90分 間の浸漬後60分 間の水切りを 行うことで水分35∼38% の最適水分量になることがわ かった.水温20℃ の場合は20∼50分 間,水温30℃ の
原穀 浸漬後 水切り後 蒸し後 麹
最適吸水 13.4 32.7 35.9 39.6 25.7 吸水過多 13.4 37.4 39.9 42.9 29.1 吸水不足 13.4 29.0 31.9 35.6 22.8
T able 3 麹製造工程中の水分変化
pH3.0
pH6.0
pH7.5
A
37.9
5.31
542
131
25.3
32.5
0.8
1.6×
10
7B
30.9
5.26
1,125
250
80.5
57.2
2.9
3.8×
10
4C
32.3
5.50
478
110
23.2
25.3
0.7
8.2×
10
5D
29.6
5.74
451
88
66.6
50.0
8.8
1.3×
10
8E
28.9
5.26
544
113
66.4
56.3
14.1
3.4×
10
6F
40.0
5.28
309
62
29.0
27.0
5.8
3.6×
10
7G
36.8
4.91
532
108
26.3
30.9
3.6
1.9×
10
7生菌数
T able 2
県内加工事業所製造の麹分析結果
pH3.0
pH6.0
pH7.5
液化力(m
l)
糖化力(Brix)
pH
最適吸水
25.7
5.58
1,661
370
93.3
67.0
4.2
125.0
15.5
5.53
吸水過多
29.1
5.54
1,450
351
58.6
49.4
2.8
135.0
14.0
5.77
吸水不足
22.8
5.55
1,428
305
100.1
67.2
3.0
123.0
14.8
5.51
甘酒テスト
プロテアーゼ
T able 4
麹の分析結果
水分(
%)
p
H
α
- ア ミラ ー セ ゙ S - ア ミラ ー セ ゙
場合は10∼30分 間の浸漬後,それぞれ60分 間の水切 りを行うことで最適水分量となった.
3. 4 豆腐の賞味期限 3. 4. 1 保存温度による影響
木綿豆腐の保存温度の違いによる生菌数の変化をFig. 6に 示した.30℃ 保存では1日 後には菌数が106に達し, 10℃保 存でも3日 後には菌数が106になった.5℃ 保存 では,概ね1週 間の保存が可能であることがわかった. 豆腐の保存は,必ず5℃ 以下で行うことが必要であるこ とがわかった.
F ig.5 水温と麦の吸水時間の関係 10
15 20 25 30 35 40 45
0 20 40 60 80 100 120
吸水時間(分)
水
切
り
後
の水分(
%
)
10℃ 20℃ 30℃
10℃
20℃
30℃
最適吸水時間
F ig.6 保存温度と生菌数の変化
0 1 2 3 4 5 6 7 8
0 1 2 3 4 5 6 7
保存日数(日)
菌数レ
ベ
ル
5℃ 10℃ 30℃
3. 4. 2 初発菌数による影響
初発菌数の違いによる生菌数の変化をFig.7に 示した. 初発菌数を102に低減することで賞味期限を最低でも1 日は延長することが可能であった.
4.
ま と め
本研究により得られた知見は以下のとおりである. (1) かりんとうは,糖衣(りんかけ)の有無により過酸
化物価の上昇に差が見られた.保存日数14日 を超え る頃から差が見られ,保存期間中を通じ糖衣がないも のの方が高く推移した.糖衣のあることで,品質保持 期間を約2倍 にすることが可能であった
(2) 光照射による影響では,蛍光灯を照射したかりんと うはわずか7日間でPOV値20を 超えた.暗所(25 ℃)に保存したものは90日 後でもPOV値 は6で あ った.
(3) 包装条件による影響では,酸素不透過フィルムで包 装したかりんとうが,ほぼ3ヵ月間品質を保持する ことが可能であった.酸素不透過フィルムに包装し, 脱酸素剤を封入したものは,90日 後でも製造直後の 品質を維持していた.気温の高い状況下でも酸素不透 過フィルムを用いることで,品質保持期間を約4倍 にすることが可能であった.
(4) かりんとうは,製造方法,製造環境の違いや季節に 拘わらず,蛍光灯直下や直射日光が当たらない環境で
F ig.7 初発菌数の違いによる生菌数の変化
0 1 2 3 4 5 6 7
0 1 2 3 4 5 6 7 8
保存日数(日)
菌数
レ
ベ
あれば1ヵ月,酸素透過性の低いフィルムを使用す れば2ヵ月,光線を遮るか脱酸素剤を使用すること で3ヵ月以上品質劣化を抑制できることがわかった. (5)10℃ で保管したイチゴジャムは,90日 後でも色調の
変化はわずかであった.常温で保管したものは15日 後,暗所保管のものは30日 後には赤色が退色し,商 品性が失われた.
(6) 県内の加工事業所で製造された麦麹を分析した結果, 水分過多で酵素生成の不十分な麹が多く見られた.ま た,雑菌汚染も多数見られた.
(7) 吸水過多の麹は,酵素活性が弱く糖化力も弱かった. 吸水不足の麹は,アミラーゼ活性が低かった. (8) 麦の浸漬条件は,水温10℃ の場合30∼90分 間,水
温20℃の場合20∼50分 間,水温30℃ の場合10∼ 30分 間であった.
(9) 豆腐の保存試験を行った結果,30℃で は1日 未満, 10℃ では2日,5℃では1週 間の保存が可能であっ た.
(10) 豆腐の初発菌数を102にすることで,最低でも1日 賞味期限を延長することが可能であった.